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第61話 秘密の会と不思議の破片

last update Huling Na-update: 2025-06-20 18:45:18

 倉庫の片隅で行われたBL布教会だったが、この倉庫、何とも古びたものでいっぱいになっている。

 布が掛けられていて中身が見えないものも多いが、なかなか年季が入っているようだ。倉庫そのものもだいぶ古い。

「ここは古いものがたくさんあるのね?」

 手近な侍女に聞いてみた。

「そうですね。ここらへんは普段使われていない場所だから、秘密の会にちょうどいいと思って」

 なるほど。ここはお城の奥まった場所で、普段は人の出入りもないらしい。

 おかげでちょっと埃っぽい。

 先ほどまで物語の朗読で声を上げ続けていたので、ちょっと喉がイガイガしている。

 私が咳払いをしていると、侍女が続けた。

「確かこのへんは、九百年とか千年くらい前のものを保管している場所のはずです」

「かなり古いのね」

 九百年といえば人間の国ことユピテル帝国の黎明期だ。

 最初の王と建国の聖女の時代。

 私は何気なく倉庫を見渡した。

 今はたくさんの女性たちがすし詰めになっていて、楽しそうに物語の感想を言い合っている。

 今後、彼女たちと萌え語りができると思うと、心が温まるのを感じた。

 ……ふと。

 並べられた棚の一つに目が止まった。

 理由は分からない。

 ただなんとなく気になったのだ。

 その棚の前まで行ってみた。

 上の段から大きな布が掛けられていて、中身は分からない。

「どうしました?」

「この棚がなんだか気になって。何が置いてあるのかしら」

「じゃあ見てみましょう」

 女性たちが何人かやって来て布をめくり上げた。

 棚に置いてあったのは、一つが手のひらほどの破片だった。

 陶器とも石材ともつかない不思議な材質で、薄暗い倉庫の中で淡く光っている。

「…………」

 半ば無意識に破片を一つ手に取った。

 白い下地に七色の文字が複雑に描かれている。

 私はこれ
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